映画

昨日、中島哲也監督、松たか子主演の『告白』を観てきた。



素晴らしかった。とにかく素晴らしかった。ゾクゾクした。


【ここからネタバレ含む】


まず第一に、役者が良い。松たか子が素晴らしかった。上手いというか、凄い。
元々松たか子が好きで、ドラマもよく観ていたが、今回はとにかく淡々と無感情に。でも裏に込められた熱いパトスというか、狂気というか、そういったものが確かにある、そんな演技だった。それ故に鉄仮面が崩れた時のカタルシスというか、燃える感じが凄い。もうGガンとかチェンゲとかそのレベル。
松たか子以外にも、岡田将生もよかった。どうせ最近のイケメン俳優の売り込みだろうと思って観たが、実に役を全うしていた。何も知らず、ただただ自分の信念に則り熱血教師として生徒とぶつかろうとする。変に意味深な演技をせず、全く裏のない演技がとてもよかった。
木村佳乃。あまり木村佳乃の演技はみたことがなかったが、さすが実力派。綺麗な演技だった。ブレがない。
その他生徒役。これもよかった。メイン3人がとても良い演技だったので、引き込まれてしまった。
生徒たちにリアリティがあったかと言われれば、微妙に首をひねるところだが、いずれも実に人間臭かった。その他モブ生徒も、実に人間だった。やはり人間とは愚かしく恐ろしい生き物だ。


あと、宣伝が上手かった。「私の娘は、このクラスの生徒に殺されました。」松たか子のこの台詞だけが強烈に脳裏に焼きつく宣伝だったので、私も含め客の抱くイメージはミステリー的な方向に流れる。
ところが、犯人は開幕間もなくして明確に判明する。しかも客のみでなく、登場人物の大半に語られる。
まぁ、よくありそうなやり方だが。この時点で観客は「これはミステリーではない」と気付く。
どこかのレビューにあったが、「この映画中、観客は身の預けどころがない」という意見は実に的を射ている。
物語の登場人物に身を預け、喜怒哀楽を共にする―そういう楽しみ方が好きな人は絶対にこの作品を好きになれないだろう。
この作品は極めて客観的に見ざるを得ない。また、事前に持っていたイメージを覆され、奇妙な浮遊感に包まれながら観ることになる。故に、極めてナチュラルな状態で観ることができるし、要請されるのだろう。

ストーリーについて。物語は主要人物の告白によって進められ、映像はそれを補う視覚情報として扱われる。この微妙な乖離がまた面白く、どちらをも損ねずにうまく一つのものとして成立している。それぞれの人物の目線はどれも違う方向を向いており、どれも実に人間の目線である。これがまた面白い。
また、綺麗に伏線が張られていた。だが、「次々と明らかになる新事実!」という感じではなく、あくまで付け足しというか、補足というか。また、どこまでが真実なのか微妙に悩まされる時間もあり、実にワクワクした。

演出的な点について。演出効果が素晴らしい。まず冒頭。長い時間淡々と松たか子の独白というか、「告白」が続くが、微妙に本道から逸れた台詞や動作、生徒の様子、反応、それとは全く関係の無い動作、別の空間の様子等々を挟むことによって、「動き」を出している。これは見習いたい。私の芝居に使えるかもしれない。これによって客は飽きずに観ていられるのだ。
説明ゼリフは使い方によってはとても有効なものになる。そのいい例だろう。正しい使い方だ。
あと、過剰演出と謎演出。どれも意味深というか。狙いがわからない演出が多々。だから面白い。特に最後のCG。見せ場でも何でもない、台詞と再現映像だけでサラッと行ってしまえばいいところを、わざわざゴテゴテさせるあの感じ。あぁ、面白い。



【ここまでネタバレ含む】



あぁ、書きたいことは色々ある気がするのだが、色々ありすぎて書けない。とりあえずそろそろ筆を置くことにしよう。


この映画で私が最も賞賛したい点は、「メッセージ性のなさ」である。途中までは、「命の重さ」とか「善悪」とか、そういうものをテーマにしているのかと思って観ていたが、そんなことはなく。
最終的に我々に残されるメッセージは何もない。「あとは自分で考えろ」というものでもない。作品中で全て完結しているのだ。

私の目指す芝居、やっている芝居はこういうコンセプト。
「…うん。なんか、面白かった。」こういう感想を引き出したい。一番嫌なのは「色々考えさせられました」というもの。私はあなた方に何も考えて欲しくはない。全て舞台上で完結しているのだ。少なくとも私の中では。伝えられていないとしたらそれは私の力不足。
いや、設定に関しては大いに考えて欲しいのだが、作品自体に対して何か考えて欲しくはない。「人生の儚さ」とか「愛」とか「温もり」とか「幸せとは」とかそういうの。私はただ美しいものを描きたいだけなのだ。極端な例を上げるならば『苺ましまろ』とか。そんな感じ。かわいいは正義。美しければそれでいい。

なにはともあれ、本当にいい映画だった。レビューが書きたいほど熱中した映画はこれが初めてだ。DVD買ってもいい。創作意欲に火がついたというか、目指すべき地点に辿り着くための素材が一つ集まったというか。この作品を紹介してくれた某さんには本当にお礼を言いたい。ありがとう。

この熱がどこまで続くか、そもそもそんなにいい映画だったのかはわからない。もう一度観たらひどく退屈なものかもしれない。というか2回目はあまり面白く無いだろう。一期一会だから面白い。一期一会でしか面白くない、そういう作品が凄く好きだ。


あぁ、上手くまとまらない。まぁ、一言で言えば「面白かった」。以上。